〜恋の度量〜

日記 ,

〜恋の度量〜

それは、たまらなくエレガントで、穏やかに甘い。
噛んだ瞬間に、シコッと小さな音がして、歯は白い肢体に包まれていく。
その時、地平線の彼方から甘みが現れる。
ゆっくり、のそりと静かに滲み出て、舌に広がっていく
ああ。
その美しい甘みに恋をして、さらに噛み込むと、肉体の奥からしぶとい味が、微かに顔を出す。
惚れてはいけません。と言っているようなしたたかさか。
海底の岩礁が放つ香りなのか。
透き通る肌を持つ貴婦人が、一瞬見せた野蛮性のような魔力に捕らわれ、さrに恋を深くする。
明石「舌平目の刺身」

そして次は、しゃぶしゃぶである。
熱き出汁の中に入れると、白い体はくるりと丸まって、「早く私を食べて」と耳元で囁く。
たまらずに口に運べば、甘みは膨らんで、じっとりと舌にからみつく。
ふふ。
その澄んだ甘みに笑っていると、またである。
飲み込もうとした瞬間に、甘みの奥から一筋ではいかぬ魔性が起き上がる。
そうか。
舌平目という魚は、恋の度量を試す魚なのだ。