〜シリーズ食べる人〜立ち食いそば編VOL1

日記 ,

〜シリーズ食べる人〜立ち食いそば編VOL1
「あの客、鬼キモイんだけど。まじむかつく」。
「はは、ありえんてぃ」。
こんな会話が飛び交っていることを、期待していた。
ここは歌舞伎町のど真ん中もある立ち食いそば店「後楽」である。
事前情報によれば、この店には、キャバ嬢が出現するという。
時間は夜七時。
出勤前キャバ嬢がいる違いないと、店の前に立った。
だがいない。
客自体がいない。
そこで、しばし待つことにした。
10分,20分。キャバ嬢は来ない。
店に入っていくのは、おっさんばかりである。
こりゃガセネタか、時間の読み違えか、日が悪いのか。
30分待ったが、気配さえない。
その時一人の若い男が入っていった。
仕方ない、今日は男で我慢するかと、店に入る。
男はホストの見習いだろうか。
まだあどけなさが残る顔に、黒のスーツが似合っていない。
白いシャツの襟をだし、茶髪を決め、眉毛を細く整えているが、まだホストとしての危なさが、滲み出ていない。
男は、「焼きそば360円を」食べていた。
よし、付き合おう。でも人生の先輩だから、「ネギマヨ焼きそば」460円と、贅沢しちゃうからね。
男は、片足を通路の後ろまで伸ばし、カウンターによりかかるようにして、皿に顔をくっつけ食べている。
姿勢は、大変よろしくないが、箸の持ち方はきれいだ。
ネギマヨ焼きそばが来た。
さすが100円増し。
マヨネーズがこれでもかとてんこ盛り。
キューピーは、大至急この店を表彰したほうがいい。
でもお父さんには、かなりきつい。
男の携帯が鳴った。
出た途端に、直立不動となり、
「はい。すいません。はい」と、電話を切った。そして一言、
「まじかよ」と、言い捨てる。
君の世界も大変だね。理不尽が山ほどあるのだろう。
でも今は、焼きそばを噛みしめろよ。
恐らく、今後一生交わらないだろう、10代後半ホストと、55歳のサラリーマン。全く違う世界に生きる男が二人、黙々と焼きそばを食べる夜が、更けていく。
新宿店は閉店、有楽町店が移転して、今は五反田にある。