〜「浪花屋」のフルコース〜

食べ歩き ,

〜「浪花屋」のフルコース〜
麻布十番「浪花屋」でフルコースを楽しむには、まず席を選ばなくてはいけない。
「二階が喫茶室になってます」。
「一階でいいですか?」
「暑いですよ」。
「はい」。
一階に客はいない。
クーラーもない。
ウチワの用意はある。
「焼きそばください」。
素朴極まりない。
キャベツと天かす。紅生姜以上という具の潔さがいい。
モチっとした麺にソースの下品が絡み合う。
焼きそばを半分頼んだところで、「氷宇治ください」と注文する。
シャリシャリ。氷を削る音が聞こえてくる。
カタンカタン。たい焼きを作る音と混じり合う。
シャリシャリ。カタンカタン。シャリシャリ。カタンカタン。
ポリリズムで響きあう。
焼きそばを食べ終える寸前に「たい焼きください」と、注文する。
焼きそば食べ終わる。
たい焼きくる。氷宇治もくる。
氷宇治を食べる。ひんやり、冷たく甘い。
かき氷を美味しく食べるコツは、一つだけ。
クーラーのない部屋で食べること。
体の表面と内側の温度格差が、かき氷の美味しさを後押しする。そして。
たい焼きの出番である。
食道が冷え切ってきたところでたい焼きをかじる。
熱い。熱いあんこが舌を過ぎ、喉に落ち、食道を下っていく。
冷たい、熱い。冷たい、熱いの同時進行。
ああ、この幸せは、なにものにもかえがたい。