「駒沢ラーメンです」

食べ歩き ,

「駒沢ラーメンです」。
冗談を言って運ばれたのは「タヤリン・イン・ブロード」。駒沢「フォルナーチェ」のスペシャリテだ。
鶏、牛、兎から抽出した三種のブロードを、巧みに合わせ、自家製タヤリンを浮かべる。
茜色のスープを、一口すすって言葉を失った。
顔を上げると、一口すすった同席者の顔が輝いている。
「おいしい」。ようやく言葉が出た。
鶏、牛、兎の滋味が一体化して、どれも飛び出ていない。
うま味が自然で、味わいが丸く、深々と舌を包み込む。
塩が一切当たらず、満ち満ちた滋養だけが広がって、喉に落ち、体の、細胞の隅々にまで行き渡っていく。
うますぎない。うまさをギリギリに止めたものだけが持つ、澄んだうまみがある。
優しい玉子の風味を含んだタヤリンが、そのうま味をからめて、口元に登ってくる。
「はぁ~」と、ため息一つ。
「あなたの最後の晩餐には、なにを選びますか?」 
もしそう聞かれたら
「駒沢ラーメン」。と答えようと思う。