「食べる人シリーズ」vol7
夜の10時に銀座線に乗った。
目の前に、推定年齢40代中盤の夫婦が立って、口をもぐもぐ動かしている。
ガムでも噛んでいるのかと思ったら、旦那さんが肩から斜めがけにしたバックから箱を取り出した。
カロリーメイトである。
カロリーメイトチーズ味である。
一本のバーを取り出すと、旦那さんが半分かじり、残りを奥さんが食べる。
車内で食べていることを恥じる気持ちだろうか。旦那さんは一本食べるごとにカバンにしまい、口からなくなると取り出して食べ、半分を奥さんに手渡し、そしてしまう。
取り出す。食べる。手渡す。しまう。取り出す。食べる。手渡す。しまう。
寸分の狂いもなき、見事なルーティンである。
しかしなぜ夜の10時にカロリーメイトなのか。
夕飯を食べることができずに、家に帰るまで我慢ができなかったのだろうか。
家が遠いのか。
旦那さんは痩せているのだが、夫婦してダイエットか。
カロリーメイトのファンなのか。
大塚製薬の社員なのか。
もぐもぐと会話も交わさず、一定のスピードで食べ進む。
見ると片手同士は手をつないでいる。仲がいいんだなあ。
そして互いの片手はカロリーメイトである。
いよいよ最後の一本(この食べ物を一本と呼んでいいかわからないが)となった。
いつものように旦那さんが半分をかじり、妻に渡す。
すると妻はその半分をかじり、残った4/1のかけらを、旦那さんの口の中に入れた。
旦那さんは奥さんを見て微笑んだ。
銀座線夜10時。夫婦愛を見た。