「私を噛むのかい?」

食べ歩き ,

「私を噛むのかい?」
食べた瞬間、鳩がたずねた。
「お前それに値する男かい?」
とも、たずねてくる。
柔らかいのでもない。固いのでもない。
少女の二の腕のような、犯してはいけない領域がそこにはある。
幼いながらも色気が滲む、二律背反の禁断がある。
歯が優しく包み込まれながら、食い込んでいく。
食感に命の気配があって、官能を揺さぶり始める。
その時。
危うくも優しい食感と裏腹の、猛々しい鳩のエキスが溢れ出す。
勇壮な肉の滋味と血の鉄分が、どどうっと舌に流れくる。
どどうっ。どどうっ。
食感と味わいの不思議に揉まれながら、落ちていく。
気品を漂わせながら、鳩のすべてを凝縮させたサンチュベールソースの深淵が、鳩を、鳩の食感と味わいを、静かに持ち上げ、心を煽る。
これが、フランス料理だ。
これが、フランス料理は“よこしま”だという秘密を知る、「レカン」高良シェフの料理だ。