「一緒に笑おうよ」。

食べ歩き ,

実は昼飯を食べ終わってから二時間しか経っていなかった。
もはや、お腹が空いているか空いてないという問題ではない。
それでも一行は「お腹が空いている」と自己暗示をかけディナーに向かった。
ところが、すんなりと食べることができたばかりか、何皿か食べ進むうちにお腹が空いてきたのである。
「一緒に笑おうよ」。
メルボルン「EMBLA」の料理は、そう語りかけてくる楽しさがあったからこそ、スイスイと食べることができたのである。
ニューオーストラリア料理を名乗るが、個性がおおらかで、いやらしさがない。
まず給仕長が店の特徴を話すのだが、その冒頭に「うちはすべてヴィクトリア州の産物を使っています」と、宣言するところが、おらが町が一番という意識を前面に出す、メルボルンのレストランらしい。
だが、その意識が愛らしく感じるのである。
マリネしたムールの酸味と、ラデッィシュの香気が食欲を目覚ます一皿。
フエダイのカルパッチョは、チリを二週間発酵させたという“かんずり”に似た味わいのソースが敷かれていて、これまたフォーク持つ手を快調に動かす。
そして「牛肉のタルタル」は、クリームチーズソースの上に盛られていて、青唐辛子ピクルスの辛味が効いたソースで和えられている。
そして傑作が、ひよこ豆のパンケーキである。
高温の炉でパリッと焼かれたひよこ豆の生地に、バジルソースと菊芋の千切り(エルサレムアーティーチョークって呼ぶんだね)とイタリアンパセリが乗せられていて、豆の優しい甘みがなんとも美味しい。
そしてローストポークは皮ごと焼かれていて、広東料理の脆皮豚のようにパリパリと皮が弾けて、しっとりとした肉との対比がいい。
ラムの胸肉は、しっとりと肉汁をたたえながら、舌にしなだれ、合いの手にミント風味のレタスをかじりながら食べ進めば、止まらなくなる。
普通のトマトサラダかと思えば、燻製香がかすかに効いている。
そしてデザートは、ジャスミンライスとチェリーの種を合わせたアイスクリームにコンポート。
「EMBLA」は、こんな楽しい料理に、ゲイ(おそらく)のボーイさんたちのきめ細やかで愉快なサービスが受けられ、連夜満席である。