「リボリータください」

食べ歩き ,

「リボリータください」と、頼むと
「はいっ。おすすめです」と、可愛らしいマダムが嬉しそうに応えた。
開店して7年経つが、頼む人は少ないという。
だが外すことはなく、メニューには載せてきた。
余った野菜やパン、豆を煮込んだ、トスカーナのごった煮である。
数多くの店でこの料理を食べてきた。
果たしてそれは、今まで食べた「リボリータ」の中で、最高だった。
がめ煮やこづゆ、大根とイカの煮物や厚揚げの煮物などをイタリア人に食べさすようなものである。
少し洗練させなきゃなと思ったり、いや現地で食べたままでいこうと考えたりと、レストランで出すには思いが巡るだろう。
しかし「ダペピ」のそれは、思いと国境を、はるかに超えていた。
気取りすぎでも、野暮ったくもない。
洗練はされているが、この料理の野太い芯は貫かれている。
野菜の優しい甘みと煮込んだパンの渾然とした、まるいうまみが舌を包み込む。
一口食べた途端に、「ああ、おいしい」と、吐息を漏らす。
欠かせないカーボエネロ・黒キャベツのたくましい滋味が底支えをし、その上で野菜や豆がのびのびと味を膨らませ、ふやけたパンが取りまとめをする。
イタリア人でもないのに、「懐かしい」と思った。
毎日食べても飽きない、大地の暖かさと優しさに満ちている。
目を閉じてもう一度、「ああ、おいしい」と、吐息を漏らす。
心を揺れ動かすのは、頼む人が少なくとも作り続けてきた、シェフの執念と愛情である。
そしてこの店の料理は、すべてがそうなのである。
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