きっかけは、メヌケだった。
どちらかというと野暮ったい印象を持つメヌケが、エレガントに口の中で舞う。
精妙な加熱によって、命のたくましさと、色気漂う脂の甘みが伝わってくる。
しかも深いコクと酸味をたたえた、エーグルドゥーソースの甘酸味が、メヌケと堂々と渡り合って、高みに登ろうとしている。
皿のデザインは現代的だが、満ちた真性フランス料理のエスプリが、我々の心を高揚させる。
一皿食べて、もっと村嶋シェフの料理が食べたいと思った。
土や粘土、テロワールにも通じる「アジル」という店名に込められた哲学を知りたい。
そうも思った。
マナガツオは、皮の香ばしさと品のある甘みを漂わせながら、口の中ではらりと崩れると、ヴァンブランソースに忍ばせたブラッドオレンジの香りが追いかける。
初夏の喜びである。
鳩は、一歩突っ込んだ加熱で、溢れる鉄分を味わう喜びと命の猛々しさを与えてくれる。
「コースではなく、自由に食べたいものを食べて欲しい。食べるのが好きな、食べ慣れた方々に来てもらいたいと思います」と、シェフはいう。
そうだ。
「明日アジらない?」なんて言って、食いしん坊を誘ってみよう。
閉店