「たまる」のシメご飯

シメご飯 , 食べ歩き ,

ご飯とお新香である。

「うちはあんこうと穴子が看板だから、うまいのは当たり前、でも突き出しと最後のご飯は命かけています」というご飯である。

白いご飯は、香り高く、甘く、一度食べ始めると、お新香を食べるのも忘れて食べ終えてします。

お代わりのお相手はお新香である。

「茄子はこう切った方がおいしいんだ。その大根食べてみて。大根はヌカを炒めるで厄介なんだけど、漬け方を変えてね。どう?うまいでしょ」。

そこには84歳にして、なお今に満足せず、さらに上を、さらにおいしさを求めようとする、良き職人の誠実があった。

大根はみずみずしいのに、ヌカの香ばしさが染みている。

なぜだかはわからない。

そして茄子は斜めぎりにするよりこうして細長く切った方が、味を探すようになり、噛んでいくうちに味が膨らむ楽しみがある。

三膳めは、わさびの醤油漬けで食べた。

「河岸に行くと山葵屋があってね。そこに山葵のむいた皮がいっぱいあるん。それをもらって漬ける。ある日ねそれに目をつけた他の店の親父がそれを売ってくれと言ったんだ。するとわさびやが売らねえと言った。その店の親父は、「たまる」さんにはあげてんだろ、俺は金出して買うって言ってんだから売ってよって言ったらしいが、それでも山葵屋は、こりゃ売り物じゃないから帰りなと言ったらしい」

江戸っ子らしい話だね。

四膳めは、アンコウ鍋の汁をかける。

かけてよくよく混ぜて食べる。

このためにきゅうりと大根を一切れずつ残し、リフレッシャーとしても役目を果たしてもらう。

甘辛い汁に塗れて、汚れちまった白ごはんが、また少し下品でいい。