「さあ食べろ」

食べ歩き ,

「さあ食べろ」。鮎が叫ぶ。
130gはあろうかという和良川の主が、皿の上でのたうっている。
腹を膨らませた堂々たる体躯に、精を漲らせ、食べる人間の覚悟を問うてくる。
覚悟があるかどうかは分からぬが、食い意地だけはある。
頭からがぶりと齧りついた。
ああなんたることだろう。
鮎が、噛むたびに、俺は生きているぞと、躍動する。
パリッと皮が弾け、ふわりと舌に乗る身肉から、甘みがにじみ出る。
最初は淡いのだが、噛み締めていくうちに、うま味が絶えることなくわき出してくる。
体は大きいのに身が細やかで、歯と舌にしなだれて、生の切なさにじり寄る。
そして肝である。
こんな肝には出会ったことがない。
上質な肝臓のテリーヌを食べているような甘味と香りがあって、味の余韻が長く続く。
身肉の圧倒と肝の陶酔が、口の中でせめぎあう。
もはや神々しい、揺るぎない野生の品格があって、人間などちっぽけな存在よと、たしなめられる
7月中旬、岐阜「泉屋」にて。