「いやん」。

食べ歩き ,

3日寝かせた白いか。
「いやん」。
一口齧ると、イカが耳元で囁いた。
白いかと呼ばれるだけあって、肢体は白い。だが寝かせると、白色は透き通っていく。
透明への変化は、味わいの汚れが落ちて、純度が増していく証なのだろうか。
その体に、醤油をスポイトで一筋落としてやり、口に入れた。
また「いやん」と、イカは囁いて、身をよじる。
ねっとりと甘い。
ただ甘いのではない。
官能に届く甘さの妖艶がある。
もういやらしい。
だから食べたすぐ後に、擦ってから三十分置き、辛味をおさえたおろし生姜を少しだけ口に入れて、その色気を、一旦口から別れさせる。
そして再び、醤油を落とす。食べる。
「いやん」。
最後に今度は少しだけ醤油を多めに落としてみた。
「いやん」。
イカは声が震えて、艶を増し、甘みを膨らませ、僕の脳を溶かした。
鳥取「なつ吉(かに吉)」にて