《チーズケーキ事件》
私の欠点は、人の話を聞いているようで、うわの空だったりすることである。
事件は、知人から送られてきたレアチーズケーキで起こった。
さてチーズケーキにおける残念は、下のタルトが湿ってしまっていることや、味が単一なことなどにある。
しかしこのチーズケーキは違った.
タルトは香ばしく、厚く、サクッと焼かれた状態を保っている。
本体は、発酵したチーズのコクに、レモンが爽やかな風を吹かせ、バニラの香りが麗しい時を作る。
表面の甘酸っぱさ、チーズのコク、クリームの滑らかさ、レモンの酸味、タルトの食感と香ばしさ、バニラの甘い香り、という6つの要素が自然に絡み合いながら、舌と鼻を楽しませる。
それでいて、頑張って作りましたという押し出しがなく、自然体の優しさがあって、料理上手のお母さんが作ったような親しみがある。
「うん、よくできたチーズケーキだね」と、家人と話し合いながら説明書を見て、愕然とした。
ヴィーガンチーズケーキだったのである。
知人のメールを見返すと、「ヴィーガンチーズケーキが完成したので送ります」と、書いてあるではないか。
まったくもって人の話を聞いていない。
聞いていなかった分、先入観なく、虚心坦懐に食べ、チーズも乳脂肪分も使ってないとは、疑いもしなかった。
しかし知らないで食べた分、ヴィーガンだと知った驚きと喜びは、大きかった。
皆さんがもし、このチーズケーキを食べるときにはヴィーガンだということは、忘れたほうがいいかもしれない(笑)。
その秘訣を聞けば、チーズが入っていないのに発酵感があるのは、白ワインヴィネガーを使い、タルトの痛快な食感を生むために2度焼きをし、レモンの香りが高いのはゼストも入れているらしい。
ヴィーガン食品にありがちな、豆臭さがないのも、工夫があるのだろう。
つまりこのチーズケーキには、些細な部分にまで誠実な仕事が行き届いているのである。
私はヴィーガンではない。
だが思いを馳せるに、今までヴィーガンの人たちは、友人がおいしそうにチーズケーキを食べる姿を見ながら、苦悶していたに違いない。
これからは同じ喜び、いやそれ以上の喜びを共有できるのだ。
それこそ、このチーズケーキが持つ真の誠実であろう。