8年後の自分

食べ歩き

「口下手でお客様とお話があまりできないので、寿司に話をしてもらっています」
「すし処まさ」の鈴木優さんは、そう恥ずかしそうに言われた。
コハダの綱代握り、海老の鹿の子握りと、いずれも古い仕事である。
日本一予約が難しいというところから、なにか勘違いした職人かなと想像される方もおられよう。
しかし鈴木さんは、お客様に喜んでもらおうという、その一心だけで店をやられている。
「以前は30数人のお客様を相手にする寿司屋を任されていたんですが、そうするとなかなか出ないとか、親方が握ってくれないといったクレームがあって、それなら自分が独立するときは、自分一人で目が届く範囲の店にしようと思ったのです」。
鈴木さんは、三席だけの店を始めた理由を、そう語られた。
三席の店は話題を呼び、テレビにも取り上げられて、店を始めて一年半ほどで予約が先々まで埋まっていった。
数年先まで埋まっているので、身体を壊すわけにもいかない。
「コロナの10年前から、外出しても手洗いマスクは欠かさないようにして、何よりも体調管理を心がけました」。
毎日豊洲に通う。
「うちは2回転で6名だから、例えばアジを買うにしても、3〜4匹なんですよ。普通はキロ単位じゃないですか。だから最初は、お前本当に寿司屋やってのんのか? とあまり相手にはされませんでした。でも今は小さくても頑張ってんなと言われるようになりました」。
そういって、鈴木さんは子供のような笑顔を浮かべた。
この笑顔にまた会いに来たい。そう思って僕は、次の予約を入れた。
予約日は、2029年である。
8年後の自分が、まだバリバリに食べていることを夢見て予約をした。
そうして、自分の健康な未来への予約を、初めてしたのである。