神田「まつや」

東京にはあんかけうどんがない。 <江戸の常日>

寒い日が続くと、『あんかけうどん』が食べたくなる。

熱々のあんが絡まったうどんを、フーフーと息をかけながら、ハフハフ食べる。

体の深部から、温まって、心も柔らかくなる。

そんな『あんかけうどん』を食べたい。

そう思っても、東京では食べることが、叶わない。

メニューにないのである。

街場の蕎麦屋では、ほとんどない。

この『あんかけうどん』とは、京都や大阪で食べるそれである。

「かれーあんかけうどん」、「なすあんかけうどん」、「黒酢あんかけうどん」、「麻婆あんかけうどん」は、『あんかけうどん』ではない。

美味しい出汁をあんにし、揚げと九条ネギの細切りと生姜を入れた、『あんかけうどん』である。

世界中の食文化が結集している東京だが、関西風『あんかけうどん』を探すのは、至難の技である。

そこで僕は老舗の蕎麦屋に行く。

1軒目は、神田「まつや」である。

メニューを見れば、、『あんかけうどん』が堂々とあるではないか。

まずは“蕎麦前”ならぬ“うどん前“としゃれて、焼き海苔、わさび菜、冷やし豆腐をつまみに、燗酒を一本飲む。

そしていよいよ『あんかけうどん』の登場である。

関西のシンプルな『あんかけうどん』とは異なり、江戸風『あんかけうどん』は、具が多い。

玉子焼き、椎茸、蒲鉾、ナルト、麩、筍、青菜が、濃い鼈甲色のつゆに沈んでいる。

薬味の生姜とネギをいれ、まずつゆを飲む。

息を吹きかけながら、慎重に飲めば、とびきり熱いつゆが静かに舌の上に広がっていく。

見た目は醤油色だが、きりりと味が締まった甘辛味で、江戸の心意気が漂っている。

ちきしょう、うまいじゃないかと呟きながらすするうどんは、中細で柔らかく、どろりとしたあんと同化するように崩れていく。

こっくりとした上品な深みが、冷えた体や心を温める。

甘辛い下地の味が沁みた分厚い椎茸も、卵の甘みが生きた玉子焼きも、江戸ならではの濃さや甘さだが、後味がきれいで、味に粋がある。

僕はたまらなくなって、燗酒をお代わりした。

実はここの『あんかけうどん』は、日本酒の肴としても、いけるのですね。