今月の次郎。

食べ歩き

今月の次郎。
小野二郎さんの握る寿司は、変わらずエレガントである。
シマアジは、なめらかな肢体をくねらせながら酢飯と舞い、スミイカは大人の気配の少しだけ手前といった感じで、凛々しさと繊細さが入り混じった切なさがある。
中トロは、変わらず舌と同化するかのように消えていき、コハダは酢飯と出会って喉をキュッと鳴らせる。
「大きくないとおいしいくないんだよね」と、二郎さんが言われる白皮のヒラメの縁側は、繊維を噛みしだくようなたくましい食感から、品のある脂の甘みが流れて来る。
赤貝は鉄分の潮を放って爽やかな香りが突き抜け、分厚いさよりは淡い甘みがぽとりと舌の上に落ちる。
アジは変わらず素晴らしく、すうっと歯の間をすり抜けるように崩れて、澄んだ脂で舌を包む。
穴子は、地平線の彼方まで柔らかく、丸く、繊維をまったく感じさせずにふんわりと酢飯と抱き合い、尻尾を巻いたあなきゅうは、穴子のムースを巻いているかのような食感で魅了する。
ウニは変わらず素晴らしく、海苔の香りと酢飯の香りとの美しい響きを見せ、カツオは燻ったたくまいしい香りとしなやかな身の対比の中に、色気がある。
この時期に珍しいタコも、栗に似た甘い香りを広げ、海老の豊かな甘さに眼を細める。
干瓢巻きのこっくりとした甘みでありながらきれいな味わい、酢飯の酸味との出会いはたまらなく、一つ一つが立派で隆々たる筋肉を感じさせるこばしらに酔う。
大トロやヒラメ、いくらや赤身も、優美な輝きがあって、うっとりとさせる。
実は長年通ってきて少しだけ変わったのだが、その話は個人的に。
96歳の寿司職人が握られる寿司の色気に、陶然となった夜