パリでイタリア料理は食べない

日記 ,

パリでイタリア料理は食べない。
この不文律を突き破る、パリに行ったら食べたくなるイタリア料理店と出会ってしまった。
郷土料理「トリッパのローマ風煮込み」は、同寸に切ったハチノスをトマトソースで煮込んであるのだが、切り方が細く、伝統的なミントも細く刻んである。
それゆえに、食感が軽い。
その分、ハチノスの厚い部分やヤン(ハチノスとセンマイを繋ぐ部分)も入れて、食感の違いを楽しませるように考えられている。
余分な油もなく、ペコリーノロマーノの量も適量で、この料理の味わいの芯であるおおらかさは守りながら、緻密に考えられた仕事が現代的な気風を醸しているのである。
仔牛頭のカサチェッリは、とろとろに煮込まれて生まれたコラーゲンの優しいうま味と大量の玉葱の甘みが呼応しあってパスタにからみ、心を緩やかにする。
ほんのり使われたレモンの皮とタイムの香りが時折味を引き締め、カラスミ粉の塩味が、フォークを持つ手を加速させる。
そして鳩内蔵のリゾットは、内蔵の滋味をアルデンテの米一粒一粒が吸わせながら、味が丸い。
続く鳩のロティは、柔らかなキュイッソンで、噛めば鳩の色気が滴り落ちて、「ううむ、うまい」と唸らせる。
こうしてパリは、フランス料理以外の嬉しい選択肢を、じっとりと広げているようなのである。ああ、困ったなあ。

パリ「Passerini」にて。