パリで肉食らって

食べ歩き ,

パリで肉食らって帰らな、新保さんに叱られる。
という強迫観念があったワケではないが、肉に食らいつきたい願望を、Sonoちゃんが叶えてくれた。
「クローバーグリル」の白を基調としたモダンな内装には、まったく肉感がないのだが、そんな空間に陳列されている肉の姿が、またいい。
貴婦人が隠し持っていた肉欲を見た、という風情があって、肉を喰らう意欲に火がつけられる。
「他店ではほとんど扱っていないNoir de batiqueがいいのよ」と、SONOちゃんはいうが、shinyaシェフは「それもいいですが、今日はde bavierがとてもいい状態に仕上がっています」と、目を輝かす。
「そ、そ、それではそれを焼いてください」。牛の種類はよくわからずとも、食べる前から鼻息が荒くなる。
このシェフの笑顔がいい。誠実そうで、おいしいものを熟知し、肉をうまく焼きそうな笑顔である。
炭火のグリドルで焼かれたお肉様が登場する。
「ああ、幸せだぁ」。食べる前から叫んで、肉に齧りつく。
骨つきで800gほどある肉塊は、噛めば噛むほどに肉のエキスが溢れ出る。
「噛んで、噛んで、もっと噛むのよ」。肉に命じられるままに、ひたすら無言で噛み、味わう。
肉汁は甘みとうま味を舌の上にグイグイと乗せ、ガリッと香ばしく焼けた表面からは、微かに熟成香が香り、脂はいやらしさがなく、とろんと消えていく。
各種ソースが添えられるが、もう見向きもしない。
最初にふられた塩だけで十二分に食欲を煽り、心を捉得る味わいなのである。
マッシュポテト、ホウレンソウのソテ、ポテトロティ、ビーツのサラダのガルニも、非常に良く出来ているのだが、肉に夢中で余裕がない。
肉だ。肉だ。肉だ。
食べ終え、骨だけが残った皿には、肉汁一つこぼれていない。
新保さん、一緒に食べにいかなあきまへんな