エビワンタンメン千二百円

食べ歩き , 寄稿記事

エビワンタンメン千二百円

エビワンタンメンと聞くと、別に目新しい料理ではないように思う。
ところが、この庶民的な味わいを想起させる麺料理を、品書きに乗せている店は、実に少ない。
大体、以前はどの支那そば屋の品書きにも載っていた、ワンタン自体を見かけることが少なくなってきた。東京では、日々ラーメン屋が増殖し続けているというのに、ワンタンにはなかなか出会えず、置いてあるとしても、肉ワンタンが主流であろう。

このエビワンタンメンは、香港ではポピュラーな人気麺料理であるらしく、最近では上陸の兆しがあるが、「たんたん亭」のエビワンタンメンは、東京風ラーメンとエビワンタンが合体した、十年来の人気メニューなのだ。

たんたん亭は、開店時から夜の閉店まで、常に盛況となる人気店である。開店以来二十年間、誠実な仕事と清潔な店内、きびきびとしたサービスという、優れたラーメン屋の規範となる仕事ぶりで、多くのファンをつかんできた。
そんなこの店でエビワンタンメンを頼むと、透明な薄茶色のスープと、手もみのやや縮れた中細麺、縁が紅いチャーシュー、シナチク、ねぎ、海苔といった正統派東京ラーメンの布陣の中で、プックリと膨らんだエビワンタンが、白い皮からうっすらと薄いピンク色の餡を覗かせながら、六つ浮かんで出てくる。
エビワンタンは、たたいてミンチにしたエビに、卵白と背脂を加えて十分に練り合わせたもので、プリプリとした歯触りが身上である。口に入れると、そんな痛快な歯触りと、トロンと溶けるワンタンの皮の対比が実にいい。同じ点心仲間の餃子や焼売に後れを取っている、ワンタンという料理の長所を、見直してしまうほどだ。

妙なエビ臭さもなく、エビ自体のほのかな甘さを感じさせるワンタンの味が、丸鶏、鶏ガラ、豚骨の滋味とオックステールのゼラチン質のうまみを溶け込ませ、煮干しの風味をきかせた奥深い味わいのスープと、とてもよく合う。
このワンタンに、しっとりとしたチャーシュー、柔らかく煮られたシナチク、そしてツルツルとした口触りの麺という役者たちも加わって、賑やかに食事は進む。

ただしラーメンとしては、ちょっと欲張りすぎてバランスに欠けるフシもある。そんな思いを抱かれた人には、メニューには書かれてない、肉ワンタンと組み合わせたワンタン(八百五十円)がいい。