サクッ

食べ歩き ,

「サクッ」。

表面の1ミリ以下に焼き固められた脂が音を立て、その下の脂はなにごともなかったように、するりと、甘く溶けた。
そして歯は、肉に抱かれていった。
肉のエキスが、ゆっくりと染み出してくる。
こちらの様子をうかがうように、穏やかな表情で染み出してくる。
水だ。
と思った。
深山の湧き水のように、味に汚れがない。
甘露だが、余分なうま味がない。
さわさわ。さわさわ。
命の水が、眠ったまま体の中に流れ込んでいく音が聞こえる。
細胞に染み渡り、心の襞を埋めていく。
愛情込めて育てられた生き物の味は、こんなにも純真なのか。
こんなにも人間に、喜びと安堵を与えてくれるのか。
愛農ポークに敬意を込めて、見事に往生させた、高良シェフの技と慧眼に震えた。
僕らを出迎えてくれた、あの愛らしい豚たちの姿を思う。
とぼけた目で寄ってきて、餌をねだった豚たちの顔を思う。
熱心に語った、愛農高校養豚部の生徒たちを思う。
ありがとう。ありがとう。
彼らに食べさせたい、と思う。

レカンにて