舌平目は舌にのると、熱々のソースと舞いながら崩れていった。
魚は、繊細な甘みの中にしたたかさがあって、それがソースの重厚と共鳴する。
しかしソースは、ただの重厚ではない。
主役の舌平目を生かす、精妙な濃度が計算されている。
だからこそ僕らは、優美な気分になれるのだろう。
間に挟んだウニも、味わいを深め、色香を付け加えているが、決して前には出ず、一つの味として馴染んでいる。
絢爛豪華な服や宝石で着飾った貴婦人が、自然に佇む品がある。
同席者と、「おかわりをください」と冗談を言ったほど、洗練された余韻があって、無くなっていくのが、悲しく、じれったかった。
「舌平目のボン・ファム」。
「クレッセント」磯谷シェフのスペシャリテは、エスコフェ以来のクラシックでありながら、貴婦人という本質はそのままに、軽やかな変化があって、現代の僕らの舌にも、深く深く刻まれ、記憶される。

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