〜セラピスト〜
一口食べて、鳥肌が立った。
「コートドール」の「土佐清水ノドグロ天火焼き オリーブソース」である。
カリリと音が響いて皮を突き破ると、皮と皮下から、エッチなにおいが流れ出す。
そしてその下の身は、どうしたことだろう。
しっとりというより、とろりと滑らかで、自らの水分を一切失わなわなかったかのように、平然とたたずんでいる。
脂は乗っているが、舌の上をさらりと流れるように上品で、身は甘く、海の豊饒をみっちりとはらんでいる。
僕は、しばし、中空を見つめたまま、動けなかった。
例えて言うなら、一流のメイクアップアーティストが女性の良い部分を強め、弱点を隠して美しくするのに対し、斉須シェフは、セラピストではないだろうか。
女性の内面を見抜き、対話によって女性自らが、自らの力で、心身ともに美しくなっていく。
そこにあるのは、その女性自身への、限りない敬意である。