味が丸い。
30数年変わっていないというパスタは、味が深いのに丸く、するりと入っていく。
一見どこでも見かけそうな姿だが、作り方が変わっている。
トマトソースに、卵黄とグアンチャーレを加えるのである。
パルミジャーノ、バジリコ、ペペロンチーノ、玉葱も加える。
いわば、カルボナーラのトマト味といったところだろうか。
支配人がワゴンサービスにて、最初から最後まで作り上げる。
北イタリア風の滑らかなトマトソースに、卵黄の甘みとグアンチャーレの脂のコクと塩気が加わって、味わいは深く、濃くなっているのだが、品がある。
丸い味なのである。
それは30年という年月が味の角をとったのではない。
おそらく、パルミジャーノもオリーブオイルもなきイタリア料理黎明期から、フィレンツェの味を伝えようと苦心してきた、人見知りで人情家でもあるバルディ・ヴィルジリオさんの誠実なのだ。
銀座「サバティーニ・ディ・フィレンツェ」の「スパゲッティアラサバティーニ」。