口に入れた途端に、クエがたたみかけてくる。
噛んでも噛んでも味が消えないどころか、膨らんでくる。
14キロの天然クエは、味の奥が深い。
ハタとは比較にならないほどの複雑なコラーゲンなうま味があって、様々な魚の味や肉にも通じる風味をにじませる。
クエの年齢は、重さプラス5年と言われるから、おそらく19年間も岩礁の奥に生息していたのだろう。
泰然自若として、じっと辺りを伺いながら、ムロアジ、メジナ、タカベなどの魚類や、イカ類やイセエビなどをも、大きな口で吸い込むようにひと飲みにしてきたのだろう。
海の豊饒が味に満ちている。
「俺の生き様を食らっているか」と、問いかけられるような、クエの生き様が舌の上で身悶える。
ニンニクや酢、香辛料などでマリネされ、その香りが味を高め、ロメスコソースに入れられた、トマトやパプリカの甘みやナッツのコクが、魚の豊満な味わいと響きあう。
「うまいなあ。うまいなあ」と何度もつぶやいたことか。
「五島列島天然クエのアドボ ロメスコソース」 銀座「スリオラ」にて。