これは純血だ。

食べ歩き ,

これは純血だ。
それほどまでに、みずみずしい。
それほどまでに、味に汚れがない。
確かに顎は動き、肉を噛みしめている。
しかしそこには、流れゆく湧き水を飲んでいるかのような、純真があった。
ジビーフである。
高良シェフが焼いた、ジビーフである。
「サカエヤ」の新保さんは、いつも言う。
「難しい肉です。素人にはうまく焼けない。それどころかプロでも、上手に焼ける人は少ない」。
それなのに、今までなんどもジビーフを食べてきた我々でも食べたことない、味わいが生まれていた。
食べながら肉に、ジビーフへの感謝が湧き上がる味だった。
牛舎で飼われる牛とは遙かに違って、ジビーフには一頭一頭の個性がある。
野生の鹿や熊のように、個体差が大きい。
だからこそ、精肉にされた肉を見極める力がいる。それを生かす技能と、センスがいる。
そしてなによりも、肉に最上の敬意を払って愛す力がなくてはならない。
農家と肉屋の思いを背負いながら料理をする、覚悟と責任がなくてはならない。
そのことに満ちた料理は、人の心を動かす。
この料理のように。

銀座「ラフィナージュ」にて。