レモンは普段、肉のため魚介のため、野菜のために生きている。
だが時として主人公となる日もある。まず思いつくのがデザートである。
中でも、体を突き抜けるような爽快感を生かすのは、氷菓ではないだろうか。
例えば、果汁にジンを加えて凍らせた、大井町の酒亭「廣田」の「岩城レモンのグラニテ」を食べてみよう。
シャリシャリと粗い結晶が溶けゆくたびに、酸味が走り、愛媛県岩城村の太陽を含んだ香りが、ふわりと蒸発する。火照った体と酔いを優しく覚醒させて帰路につかせる、優れた居酒屋デザートである。
京都「なかひがし」では、レモンゼリーの上に蓬アイスを載せたデザートをいただいた。
一緒に口にすれば、優しい甘みの中で、レモンの香りと酸味が蓬の青々しい香りとほろ苦味に出あい、互いを引き立てる。
糖分にたよることなく、たんまりとご馳走を受け止めた舌を、野の香りと個性で引き締め、同時に胃袋を沈静させる、アロママッサージのようなデザートである。
レモン氷菓を簡易に作るのなら、市販のバニラアイスに果汁を絞る。
ちょいと凝るなら、本来の香りと酸味が素直に出た、千疋屋のレモンシャーベットを入手してウォッカを垂らし、「リモン・コン・ヴォトカ」と洒落るのもいい。いずれも食べ過ぎたゾ(そんなときにデザートを食べるなという話もあるが)という夜を、爽快に閉めてくれる。
デザートは別腹というが、糖分で血糖値を上げて満腹感をごまかし、さらに酸味で食欲を刺激するのだから、レモンの菓子は危険きわまりない奴である。