桃でもセロリでもなかった。
「香川県飯山町の白桃とセロリのスープ」である。
スプーンですくい、口に運ぶ。
ひんやりとした液体が、とろりと舌に流れ込む。
一瞬桃の甘みを感じたが、瞬く間にセロリの香りが鼻に抜ける。
混ぜなくとも、その二つに境がない。
桃とセロリは、互いに相手の呼吸を知っていて、一つの体、一つの味となっている。
考えてみれば、桃とセロリは相容れないような性格をしている。
だが今は丸く、優しく抱き合って、新たな天体を生み出しているのだった。
なぜこの組み合わせを考えたのだろう。
シェフに尋ねてみた。
「桃のスープは前からお出ししていたのです。でもある日若い子が間違って、セロリの抽出オイルをその中に落としてしまったんです。そこで飲んでみたら意外な発見をした。それからです」。
偶然から生まれたものであった。
だが、桃の季節や産地、セロリとの量など試行錯誤しながら緻密に決めてきたのだろう。
だからこそ、このスープには自然がある。
人工物でありながらも、悠久の昔から存在していたかのような生得的な出会いがある。
白桃は「なつおとめ」だろうか。
香川県飯山町は、四国一の桃の産地で、丸く大きい、糖度が高い桃を作っている。
しかし糖度が高いからといって、料理に向くものではない。
「今の7月初旬までの、桃が一番好きなんです」。
そう語るシェフの目には、桃に対する慈愛が輝いていた。
六本木「パトゥー」 夏のスペシャリテ「香川県飯山町の白桃とセロリのスープ」