福井の海は奥深い。

食べ歩き ,

ベタの骨切り、せいげ鍋、ヤリイカエンペラ、イワシ、イシエビとガマエビ。
昨夜は山下船長の計らいで、ホテルイカしゃぶしゃぶの他、漁師でなくてはいただ毛ない、希少な郷土料理を次々といただいた。
最も驚いたのが、今が旬だというイワシである。
刺身は、脂がのっているが。いやらしさが微塵もない。
きれいな、きれいな味わいで、噛んでいくとなぜか甘さを感じるのである。
こんない淡いは食べたことがない。
さらには、軽く干したイワシもいただいた。
これも味わいが澄んでいる。
ふっくらと太っているが、くどくない。
小骨どころか、中骨も食べられる。
おそらく10匹は、軽いのではないか。
船長は毎朝5匹ほど白ごはんで食べているというが、羨ましい。
「これ食べてみい」と、次に出されたのが、「ベタの骨切り」である。
ベタとは、ナメタガレイやヤナギムシガレイの、福井での地方名だという。
生のカレイを、骨ごと細切りにした刺身であった。
食べるとシャリシャリとして、カレイの柔らかい身と対をなし、酒が楽しくなる。
そんな刺身であった。
次はやりイカの刺身であった。
東京でも同じものは食べられる。
だが脚のあたりをよく見ると、まだ生体反応があった。
肌が微かに明滅している。
胴体の切り方は、横切りと縦切りにされていたが、横はムチっとした食感で、縦はコリリとした歯応えで、縦切りの方が、断然うまい。
勇壮な食感を噛んでいくと、甘みが滲み出る。
部位でさらに気に入ったのが、耳と口辺りである。
すべての動物は、よく動くところが美味しいという原則に沿って、エンペラーは、痛快なシャ感触が弾けると甘みが湧き出てくる。
一方口の少し植野部分はコリッとしていながら、肝を内包しているのでたまらない。
このコリっと中から現われる肝の柔らかい食感の対比に、コーフンさせられるのだな。
そして最後は、せいけ鍋である。
本来は1月に出される料理だが、特別に真空パック冷凍されたせいこがにでやっていただいた。
なばに大根おろしと水とばらしたせいこ蟹を入れて加熱し、納豆味噌で味付けをし、ちょいと醤油も入れ、最後に岩海苔を入れる。
漁師飯である。
蟹の卵とミソの旨味、身の優しい甘み、岩海苔の香りと甘み、味噌の甘み、大根お優しい甘みが、丸くまとまって、渾然となる。
ご飯にかけ、あるいは小鉢にご飯をぶち込んで掻きこむ。
味は濃くないが、穏やかな海の滋養がご飯を包み込んで、心が温まる。
何かこのぶっかけご飯を食べていたらお腹が空いて、残ったイカ刺しに醤油をまぶして、ご飯に乗せてかき込んだ。
これもまた、よきかな。
最後はイシエビとガマエビを串刺しにして干したのを魚に、とっぷりと一本義の燗酒を頂いた。
福井の海は奥深い。
福井「ななと実」にて