変わった握り寿司だった。
切り身を切られる時、随分と薄く切られるなあと思っていたら、二つに折る。
もしくは重ねて握られるではないか。
酢飯に二枚の切り身が、おぶさっている。
親亀の上に子亀ではないか、懸命に乗っているようで可愛らしい。
「うちの酢飯はやや柔く蒸していますので、鮑とかタコとか、どうやっても水平になってしまうのは馴染まない。そのため薄く切ったものを重ねて、包み込むように握っています」。
いかにも誠実そうな性格がにじみ出た中村さんはそう言われた。
クエもさわらも、トロもアオリイカもそうして酢飯を抱き込み、仲良く口の中で舞う。
寿司で最も大切なことは、酢飯とネタの合一だと思う。
その意味でこの寿司は、別の意義を見出したのではないだろうか。
もちろん、そんな小難しいことを考えずとも中村さんの寿司は、すっと口の中に入り、ふんわりと消えていく、優しい優しい寿司なのである。
造り
★長崎やいと鰹 ミソダレ
ネギと味噌と甘み いい脂が去っていく
握り 酢飯は赤酢
★クエ
軽く炙って、薄く切ったものを二つ折りにして、煮切りとすだち。
ふわりと歯が入るが、シコッと弾む。うまみが湧き出る。
★カンパチ天草
定置網 これも二つに折って。
脂がきれい。
★サワラ 大矢野 上天草
藁で焼いて 香り 柔らかなあまみ
★赤ウニ 天草 石深
濃厚。
★中トロ カナダ
薄切り3枚重ね。
★アジ 有明海
芽ねぎと生姜、わさびかまして
いかっている
★茶碗蒸し
餅 海苔 クエの肝
★長崎車海老
エビの温度に合わせて、ここからシャリがさらに暖かくなった。
★アオリイカ。
品のある、圧倒的なあまみ。
★いくら
フリ柚子
★津島の穴子
★干瓢手巻き
海苔は熊本河内町
★玉子焼き
鯛のみ作った上品な味わい
熊本「鮨中村」にて。