串アサリは、アサリの身に串を刺して干したものである。
自家製だというそれは,アサリが隠していたうまみを伝えくる。
口に入れて噛み、唾液と混じり合ううちに、うまみがぐんぐん膨らんでいく。
歯や唾液や口中の温度によって目覚めさせられたアサリが,生に戻ろうとしている。
そんな瞬間があった。
おそらく,塩がもう少し多いと生バチコの色気が失われる。
際の塩梅を極めているのだろう。
噛んだ途端,舐めた途端に、「ああやめて」と、呟いて虚空をみつめた。、
ふと我に帰って、盃に手を伸ばす。
酒と出会ったばちこが、艶となって、口腔内を舐め回す
やがてなくなっていくのだが、そのことが切なくてたまらない。
「吉い」にて