カリッ、ザクッ!
アジフライを噛んだ瞬間、お座敷に音が鳴り響いた。
最強のアジフライである。
アジフライといえば、銀座の「きく」、京橋の「松輪」、閉店した広尾の「田はら」という名が上がる。
だが創業100年を迎える、ここ老舗洋食屋のアジフライは、素晴らしい。
きめ細かい衣をつけ、豊洲から仕入れた釣りアジを揚げる。
揚げた姿が反ることなく、端正で美しいのは、尻尾の骨を第二関節まで残して開いているからである。
温度は高温少し手前で揚げていく。
すると衣の水分は抜け、アジの身は蒸された状態で、衣に密着する。
ザクッ!ザクザクッ。
目の前で食べている人の噛む音が聞こえるほど、痛快な音が響く。
こうした衣のカリカリ感があるからこそ、アジのふんわり感が際立つ。
その対比に惹かれ、一匹目は塩もかけず、そのまま食べてしまった。
二匹目は、タルタルを乗せて食べよう。
フライを邪魔しないよう、ピクルスや玉ねぎを極微塵に切った、ソースとしての分をわきまえたタルタルなので、たっぷりと乗せて口に運べは、笑いが生まれる。
一方、ウースターソースをかければ、ご飯が恋しくなる。
そして最後は尻尾を食べよう。
尻尾は、胡麻油に似た香ばしさを放ちながら、カリカリと痛快に砕け散っていく。
そこには尻尾がおいしいアジフライは、すべからず一級品であるという真理があった。
真理を生み出したのは、誠実な4代目の仕事である。