銀座「すきやばし次郎」

今月の次郎 酢飯のおいしさを最も生かすのは。

食べ歩き ,

今月の次郎。230830

台風一過、お盆も過ぎて、夏の魚たちが生き生きと爆ぜていた。

いつも特別に素晴らしいアジは、繊維など一切なきかのような滑らかな肉体に、上品な脂をみっちりとつけて、舌の上で崩れていく。

穴子は今回、歯を使わずに食べてみた。

上顎と舌で、つぶすようにしていくと、甘辛いツメの下から、穴子自体の甘みが、ゆっくりと膨らんでくる。

カレイは香り、シマアジは脂の甘みを流しながら、身を捩らせる。

カツオは血のしぶきを上げ、蒸し鮑は海の豊穣をしたたらせ、車海老は、ぐっと甘みを増している。

そしてこの時期ならではの、新イカと新子である。

新イカのつたない食感に、1年ぶりの恋が芽生える。

新子のはかなさが、胸を焦らす。

ここで毎年、新子を食べるたびに思う。

「次郎」の酢飯のおいしさを最も感じさせるのは、新子ではないかと。