危険である。
非常に危険である。
デセールが終わってマドレーヌが出された時、「包んでいただけますか」と、言おうと思った。
しかし、皿からバターの香りがふわりと立ち上っている。
焼きたてなのだ。 各テーブルごとに、焼きたてのマドレーヌを出すのである。
「カリリッ」。
歯を立てれば、温かいマドレーヌが音を立てる。
そして歯は、ふんわりとした生地に包み込まれる。
玉子の甘い風味が、口いっぱいに広がる。
かすかにレモンの香りが鼻を抜けていく。
「もうダメ」。
僕は体の力が抜けて、女の子のように口走る。
バターをたっぷり使い、良質な玉子と粉を使った、焼きたてのマドレーヌは、とてつもなく危険である。
味わいが豊満で、母の胸に顔をうずめたような懐かしさがある。
これは菓子ではない。情愛が菓子の形をしているだけだ。
二個を瞬く間に食べ終えた僕は、「もう一度焼いていただけませんか」という言葉を、ようやく飲み込んだ。
「トゥール・ダルジャン」にて。