冬だ。ビールがうまい。
え? ビールといえば夏じゃないの? と、いま思ったあなた。甘いですぞお。
そりゃあ、暑い夏もうまい。でも、ビールの味が生きるのは、冬なのだ。
頬を打ちつける冷気に、コートの襟を立てながら、温かい部屋に入る。
体の芯はまだ冷たいが、体表がじわりと温まってくる。そこでビールの登場だ。
きめ細かく、クリーミーな泡が、冬の乾いた唇を、いたわるように包み込む。
グラスを傾ければ、冷ややかな液体が静かに流れ、舌を過ぎ、乾燥した喉をグググと鳴らす。その時だ。
「ぷはぁ」。
グラスを離した口から、思わず充足のため息が漏れる。
鼻に抜けるホップの華やかな香りを感じながら、体に精気を吹き込んだビールに、感謝する。心の中で手を合わせ、「ぷはぁ」と反芻する。
ああ、幸せだなあ。夏の湿気た、エアコンで冷えた空気ではこうはいかない。冬の乾いた空気で飲んでこそ、「ぷはあ」力が増すのである。
だから冬は、積極的にビールを摂取する(飲む言い訳だという説もあるが)。
例えば今回の「ぷはぁ」採取場所である「アウグスクラブハウス」へは、しょっちゅう出かけちゃう。
ここのビールは困ったことに、酵母が生きているので、冷たい時はもちろん、ぬるくなっても風味豊かでおいしいのだ。
さらに困ったことに、自然発酵で、炭酸ガスを注入していないため、お腹膨れず、何杯でも飲めてしまう。
最初から最後までビール。気の合う仲間と、「ぷはぁ」の連続応酬である。一晩に何十回も「ぷはぁ」を繰り返す。
店内は、客たちの「ぷはぁ」オーラが漂って、幸福な空気で満たされていく。緩く甘い空気が流れる中での「ぷはぁ」は、なおさらうまい。
爽やかなのど越しで、うま味が丸い、ピルスナータイプのオリジナルで、「ぷはぁ」。するすると入っていくのに、コクが深い、黒ビールのマデューロで、「ぷはぁ」。
柑橘系の甘い香り漂う、白ビールのスノウ・ブロンシュで、「ぷはぁ」。 甘い香りとアタックのある苦味がクセになる、IPAで、「ぷはぁ」。
様々なビールを飲み比べ、飲みすぎに用心と思いながらも、いつも飲みすぎちゃう。
でもいいじゃないですか。「ぷはぁ」の数だけ、幸せになれるのだから。
<麦酒飲酒時幸福派生系>。
最適な場所と条件で、おいしいビールを飲んだ時のみに発生。居酒屋では、「とりあえずのプチ幸福系」とも称され、飲酒常用者には、欠かせないグルマトペとされている。
「ぷはぁ」採取場所「アウグスクラブハウス」。
濾過せずに、ビール酵母が生きた、アウグス社のビールが数種類飲める店。香りの良さ、味の複雑さ、キレの良さ。本来のビールの魅力に浸れる店。