僕は親子丼を目の前に出されただけでにやついて、だらしない顔になってしまう男です。
それは無類の鶏肉好きで卵好きという理由もありますが、この丼に親子の情を感じるからなのです。
親(鶏肉)は、子供(卵)を優しく見守りながら、決して表には出ようとしない。
卵の甘みをそっと引き立ている。
そんな親子愛に溢れた親子丼が好きなのです。
この店の親子丼は、卵が力強い。
力強く、やさしく甘い。
白身がふわりと唇に触れ、風味を高めた黄身がてれんと舌にしなだれる。
二回に分けて流し入れた半熟具合も、それ以上でも以下ない状態に決まって、親子丼の主役は卵なのだ、卵の偉大さがあってこそ親子丼なのだと気づかせる。
鶏肉の違う食感も楽しい。
もも肉、胸肉、ささみは、ご飯と一緒に描き込めるほどよい大きさで、卵を引き立てつつ、親の尊厳も静かに主張している。
甘辛い丼つゆは、玉子の力強さにピタリと寄り添って、盛り上げる。
すべてが親子丼という料理の理想に向かって集結した美しい親子丼なのです。
ああ書いているうちに、また食べたくなってきました。