体に染み付いた味というものがある。
それはその後にどんな美食を重ねようとも色褪せることはない。
僕にとってその一つが、中野「大勝軒」のつけそばである。
ある日思い出すと、無性に食べたくなってたまらない。
何しろ高校の時から食べているので、もう50年も食べていることになる。
大勝軒は昭和26年創業で、別の場所にあった頃から食べている。
普通熱いものは熱く、冷たいものは冷たく食べるのが美味しさの秘訣であるが、冷たいものを熱いものにつけて食べるという、コペルニクス的発想が僕を虜にした。
普通は写真とは逆の位置、つまり麺を右奥においてから、手前のスープにつけてすする。
熱々のスープが麺の冷たさでだんだんぬるくなっていくのは、自然の法則であるが、いかにこのぬるくなる速度を遅らせるかが、肝心である。
つまりできるだけ早く、脇目を振らずに一心不乱に食べる。
食べられるだけの麺を箸で取り、スープにつけたら素早く食べる。
具は麺と一緒につかんでもいいが、具にはあまり執着せず、食べ終わった頃に残っているくらいがいい。
半世紀通って様々食べた結論としては、「竹の子つけそば」が、もっともバランスがいい。
天気によって配合や打ち方を変えるという自家製麺は、つるつるもちもちして今日も輝いていた
昔の味は、独立された鍋横店の方が近かったが、惜しむらくは2018年で閉店された。
「大きく軒並みに勝る」から店名をつけたと聞くが、まさに僕の中では、唯一軒並みに勝って、生き続けている。