僕のわがままな望みを、カブンちゃんが叶えてくれた。
作っていただいたのは、料理本を数冊出版している、元ニュースキャスターであり作家でもある、料理研究家の呉恩文氏と、台湾きっての食通であり、ELLEの編集長でもあり、美食ECサイトの経営者でもある、チャーミングなシンディちゃん。
米酒、醤油、塩、砂糖。
お二人とも、ほぼこの調味料だけで多彩な料理を作られた。
それは、食材の味や香りが生きていているからこその多彩であり、かつ御飯が猛烈に恋しくなる料理なのである。
呉恩文氏は言う。
「教室をやっていて、レシピを書き留める人がいるけど、それはダメ。また作るときその分量を見ないと作れない。手と目と能がバラバラになってしまう。切り方や調味料や火加減、タイミングなど、なぜそれをしているのかを理解しい手と目と能を一緒にしないと、素材の香りは生かせない」。
呉氏特製の広東式と四川式の泡菜と、皮が柔らかい上等な皮蛋と鹹蛋が並ぶ。
塩気が絶妙な切り干し大根入りオムレツ「菜脯蛋」は、シンディちゃんの作品で、水で戻した切り干し大根を切って炒め、オムレツにしたものである。
続いて呉氏の角煮。「家庭での角煮は、誕生日などの記念日に作るものだから、肉は大きく切る。今日も大きく切って作りました」。
広東家郷菜で、客家では海鮮を入れ、上海では干したハモやイイダコを入れるというこの料理の椎茸を食べ、肉を食べて驚いた。
なんと椎茸や豚肉なのに、スルメの味がするではないか。
「ああスルメだ」と言って笑うと、「今日の角煮は、肉だけど海の味がする角煮です」と、呉氏は嬉しそうに微笑んだ。
豚塊肉をソテーし、醤油を入れて椎茸を入れて混ぜる。
さらに戻した干スルメと干しえびを入れ、醤油と酒を足して10分ほど煮る。
そこに水を注いで、肉や椎茸、乾物の香りが出るよう煮ていくのだという。
大地と大海が抱き合う味の豊かさに、顔が崩れ落ちた。
しかしまだ序章、まだまだ料理は続く。
僕のわがままな望み
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