「北海道根室直送エイのクールブイヨン煮 シェリー酢ヴィネガー」
1981年5月、斎須さんとベルナールパコーが、「ランブロワジー」を開店させてから、30数年作り続けている料理だ。
この料理の主役はソースで、キャベツとエイはガルニだという。
全体をよくよくかき混ぜてから食べ始めないといけない。
鼻を突く酸っぱい香り、バターの甘い香り、煮詰めたシェリー酢の複雑な旨味が渾然として、キャベツとエイにからまっていく。
「強烈なソースの個性を、淡泊なエイの味とキャベツの甘みが引き算してくれるのです」。
そう、斎須さんはおっしゃった。
「若い頃は少しの雑味も平気だったんですが、いまでは微塵の雑味も気になるようになりました。だからソースをかける時は、今日のエイには、どれだけの量が適切かを考えて緊張し、手が震えます」。
斎須さんは、修行僧のようなオーラを出しながら、淡々と語られた。
30数年かけて、雑味を取り払った一皿は、空気のように優しく、雄大で、呼吸するかのように、口に広がっていく。
キャベツの甘みにエイも負けることなく、九条ネギのアクセントも精妙で、自然だけが持つ均整美と品を備えている。
それでいて、きっちり効いた塩と胡椒(恐らく白と黒のブレンド)が、食欲を煽り、心を震わせる。
コートドール