僕らは、もう十二分に、日本の食材の素晴らしさを知っている。
しかしこの店では、それが“つもり”であったことを教えられる。例えば、写真の太刀魚の皿はどうだろう。宮崎県青島産の黄ビレ太刀魚が、塩焼にされて皿の中央に鎮座している。
食べれば甘い香りを放ちながら、ふんわりと崩れていく。ムースのような食感に込められた、味わいの豊かさに目を細める。日本には、こんな太刀魚があったのか。
周りは、茗荷竹、姫竹、山ラッキョウなど、全国から届いた野菜が並べられ、それぞれの香りや苦みなどが刺激し、リフレッシさせ、再び太刀魚に向かわせる。バルサミコのようなコクと酸味を持つソースは、岐阜の白扇酒造が長期熟成させた「古々味醂」を煮詰めたものである。
この国ならではの、海と山とのつながりに感謝し、恵みの奥深さを痛感する。
「フレンチ割烹」と称しているので、フレンチを、割烹スタイルで出す店と紹介されることも多かろう。しかし芯は違う。「日本の食材ってなんて素晴らしいんだろう」。来日して21年になるドミニク・コルビ氏の、日本の食に対する深い敬意の声に、打たれる店なのである。