「カァーン」。
東京駅に着くと、頭の中でゴングが鳴る。さあ、おいしいものを食べるぞ、いざ勝負と、闘志が湧く。
日本一数が揃えられた駅弁やカツサンド。隣接するホテルやデパーや数多くの飲食店。
ここは、選ぶのに困るほどの “おいしい”が、待ち構えている場所である。
まず楽しみは、駅弁だろう。
構内の「祭」だけでも約200種、近隣も含めれば、約400腫の弁当が売られている。
ではまず、その半数近くを食べてきた中での、私的ベスト5を紹介しよう。
5位は、新潟の「えび千両ちらし」。
厚焼玉子の下に、コハダやウナギなど、四種の寿司ネタが隠された、ちらし寿司である。
ネタを掘り当てる、宝探し感も楽しい弁当である。
4位には、東京駅で売られる牛肉系弁当中ベストだと信じる水戸の駅弁「常陸牛 牛べん」をオススメする。
常陸牛をすき焼き風に煮て、ご飯にの上に乗せた駅弁で、脂身と赤身がバランスよく配置され、肉は厚みがあり、甘辛い味つけが細よく、飽きがこない。
ちなみに他の牛肉系では、大丸地下「柿安」の「黒毛和牛 牛めし」も、質が高い。
3位には、たっぷり鶏そぼろと照り焼き、コールドチキンが入った、懐かしい味わいが広がる高崎の「鶏めし弁当」をあげたい。
これに「国技館焼き鳥」を買い足して、鶏肉ざんまいという、プチ贅沢をしても楽しい。
以上は、コンコース内の弁当専門店「祭」で購入出来る。
他には、横川「峠の釜飯」、厚岸「かきめし」、広島の「とろーり煮穴子寿司」、岡山「愛媛みかんブリ弁当」、新潟「新潟米弁当」、八戸「大漁市場」などがオススメで、これから出かける地方の弁当を買って、旅情を盛り上げるのもいいだろう。
2位はご存知、崎陽軒「シウマイ弁当」にしたい。
全国で一番多く売られているこの駅弁は、南側新幹線口に近い、構内の「膳まい」などで購入できる。
この弁当の魅力は、もう何も言うまい。
ついでに、朝10時ごろから並ぶ、同社の「生姜焼き弁当」もおススメである。
映えある1位には、グランスタの「てとて」の魚が主菜となった各弁当をオススメしたい。
紅鮭の塩焼きやカレイの照り焼き、西京焼きなど、どれも堂々たる姿で大きく、魚の質が驚くほど高い。
合成保存料や着色料、化学調味料を使用していない点も素晴らしく、魚が主役の弁当としては、日本一だろう。
続いてパン系では、京葉ストリートにある「ブーランジェリー・ラ・テール」の、「豚チャーシューと彩り野菜のバインミー」。
鎌倉ハムとチーズというシンプルな、明治32年発売、大船軒の「サンドイッチ」を推薦したい。
一方、73種類も売られているというカツサンド系では、京葉ストリートにある「Antedo」の東京駅限定極厚三元豚カツサンドかメンチカツサンド、大丸地下「ポールボキューズベーカリー」のヒレカツサンド、サウスコート「平田牧場」の平牧三元豚ヒレカツサンド、豚ではないが、グランスタ「ブランジェ浅野屋」のエビカツサンドがよろしい。
あるいは、大丸「イノダコーヒ」で、ビーフカツサンドをテイクアウトするという裏技もある。
または数名で列車に乗って、宴会をしながら目的地に向かいたいという方もいよう。
ならば、グランスタ「はせがわ酒店」に直行し、好みの日本酒やワインを選ぶ。次に大丸地下で、和や洋の惣菜を買い込むのが正しい。
オススメは、大丸地下「弁松総本店」の東京風にこっくりと甘辛く味をつけた、野菜の甘煮と玉子焼である。
こいつを肴にして日本酒を傾ければ、江戸情緒あふれる宴会となる。
さらにもう少し贅沢が許されるなら、八重洲の「おけい寿司」でバラちらしを作ってもらい、持ち込むのはどうだろう。
東京駅は、こうした旅の友としてのアイテムが充実しているだけでなく、お土産品も数多く売られている。地方にはない東京土産として考えるなら、ここは和菓子をオススメしたい。
大丸地下「羽二重団子」の、香ばしい焼き団子(醤油)と滑らかな餡団子や、同じく大丸「駒込 中里」の揚げ最中と南蛮焼は、東京下町の心意気が伝わる、気取りのない菓子である。
さて、弁当やサンドイッチ、手土産は決まった。あとはどこで食べるかである。
朝食なら、グランスタ「マンゴツリー」で朝限定の「朝タイラーメン」。鉄鋼ビルの「サラベス」でNY風エッグベネディクト。
八重洲地下「バビーズ」でヴォリュームのあるアメリカンブレックファースト。グランスタ「リーゾカノビエッタ」のリゾット。
京葉ストリート「マダムプロ」で、デンマーク風サンドイッチ。といった具合に、世界の朝食を渡り歩くこともできる。
さらに非日常を味わいたければ、ホテルだろう。
フォーシズンホテルの「EKKI」(別の店に)か、シャングリラホテルの「ビアチェーレ」の静謐でモダンな空間で、眼下に東京駅を眺めながらの食事は、豊かな時間を与えてくれる。
昼食では、キッチンストリートの二軒をオススメしたい。
行列の絶えぬ人気店、とんかつの「寿々木」では、優れたロースカツ定食がいただけるほか、エビフライや丼物もおすすめである。
もう一軒は、京橋の洋食店ドンピエールがやられているカレーショップ(閉店)で、特製ビーフカレーかホワイトカレーを楽しみたい。
あるいは東京一番街の「横濱崎陽軒シウマイBARバル」はどうだろう。蒸したてのシウマイを各種食べ比べられる他、弁当に入っている筍煮が一品料理として用意されているのが、シウマイ弁当ファンとしては嬉しい。
ちなみに店頭で売られている季節の月餅は、小ぶりで珍しく、土産に最適である。
さあ、あとは夕食である。どこで食べようか。
これはやはり、少し歩いて外に出たい。八重洲に出て、天保6年創業の鰻の「はし本」にて、様々な珍しい鰻料理で一杯やってからうな重で締めるもよし。
昭和13年創業の大衆居酒屋「ふくべ」でシメサバやくさやをつまみながら、燗酒をとっぷりと飲むのもよし。
この二軒は、江戸っ子なら東京に戻ってきたなあという気分を呼ぶし、地方から出てこられたなら、東京庶民の風情を感じ取ってもらえる店である。
さあどうです。
おいしい東京駅。いやもう、書いている自分自身が、猛烈に行きたくなってきた。