旬の歳時記  時知らず

食べ歩き ,

渋谷の「たか」で、「ああっ」と叫んだ。船上で生き締めされた、時知らずの酒蒸しだ。

皮と身の間の、たっぷりとのった脂が、ちゅるんと溶けて、何事もなかったように消えていく。

脂に気品があってどぎまぎと、胸を騒がせる。しなやかな身は、甘みとともにほろりと崩れて、再び「ああっ」。

時を忘れて捕獲された、子に栄養をやる前の鮭の豊かな養分に、頭を垂れる。

時知らず。魚名は、自然への畏敬の念を込めた、敬意なのだ。