「ずうっとチャレンジしていたんですがうまくいかず、今年やっと出せました」。 そう言って出していただいたのが、「鱒壽司」だった。
片折さんは言う。
「刺身のようにひいては塩が効かず、だから包丁の入れ方に工夫を重ねましました」。
わさび菜を添えた鱒壽司は、市販の姿とは、まったく異なる。
普段見かけるそれは、鱒と酢飯の比率が、2対8ほどであるが、これは7対3と逆転している。
食べれば、しっとりとした鱒の肉體に歯が包まれ、濃醇なうま味が舌を舐め回した頃合いに、キリリと酢飯が追いかける。
鱒の艶に酢飯の博愛が受け止める。
そのバランスが精妙で、「うっ」と、唸らせる。
噛んでいる時間が夢となる、エレガントな鱒壽司である。
ゴマと薄く切ったレンコンのアクセントも心憎い。
おそらく、切り方だけでなく、酢飯の塩梅、締め方や時間、鱒と酢飯の配分、蓮や胡麻の量や薄さなど、理想の鱒壽司を求めて、何度も試行錯誤を繰り返してきたのだろう。
出來上がった鱒壽司は、そんな苦労など微塵も見せずにさりげない。
だがそのさりげなさは、一點の曇なき味わいに満ちていて、限りなく美しかった。
金沢「片折」にて