「いらっしゃいませえ~」。
店に入るなり、快活な男性の声に出迎えられた。
やはり店は、こうでなくちゃ。
浅草橋駅のそば、歩いて20秒。「きらく蕎麦おがわ(東京の立ち食い蕎麦界で、最長の名前だな)」は、元気に満ちたご主人と、おばさんの二人で切り盛るそば屋だ。
「むむぅ」。カウンター席に座り、種類の多いメニューを睨み、悩む。
「ヘルシーミックスそば500円に、かき揚げ100円のせて下さい」。
折角、茸、大根おろし、わかめ、海苔というヘルシーなメニューを選んだのに、かき揚げを追加するという自己矛盾が生じたのは、隣の中年男性が食べているかき揚げそば400円が、実にうまそうだったからだ。
かき揚げを揚げる際に、上から衣を散らすのだろう。細やかな衣の花が咲いている。
サクッと衣をかむ音が聞こえ、つゆを飲むたびに、「はぁー」と、うまそうなため息をついている。
かき揚げは揚げたてではないが、衣が軽く、繊細で、歯触りがいい。衣を断ち切る歯が喜んでいる。中の玉葱人参は、みずみずしさを残した揚げ具合。
こりゃ、相当気を配しているなあと、うかがえる。一方、おろし、海苔、茸というヘルシー軍団も、たっぷりだ。
しばらくして、40代の太った男性が入ってきて、「ヘルシーミックス、そばで」と、頼んだ。
えらい。体に気を使っているのね。
出されると、ゆっくり食べ始めた。が、悩むような顔つきで、「いなり一つ70円とかき揚げ下さい」と追加した。
わかるよその気持ち。自己矛盾。
一度は抑えた食欲を、解き放ってしまったんだね。
好きだな、こういう人。
きらく蕎麦おがわ
03-3861-8411
7~930
11~15日祝