「ギィ、ギィッ、ギィッ」。
伊勢海老が身を反らせながら、鳴いている。
見事にでかい。
今朝獲れた伊勢海老だという。
ここは高知県須崎市浦の内池ノ浦にある伊勢海老料理店、「中平」である。
標高約120m、山の中腹を貫く横波スカイラインから海岸へ降りること5分、静かな漁港に着く。
この地で「中平」は、40年前に店を開いた。
伊勢海老は毎朝、刺し網漁で獲っているのだという。
「以前より減ってきて、規制もしてるけど、まだまだ豊富に獲れるんよ」と、「中平」のご主人は胸を張った。
に隣接した土地がいいのだろう。
木々から流れ出た養分が、急勾配の土地を伝わって海に流れ込む。
豊富な微生物が発生し、海藻が育ち、貝類やウニなどが活動し、それらを伊勢海老がせっせと食べる。
そんな循環が活発な海なのだろう。
伊勢海老の旬は、産卵期を終えて身が締まってくる10月から1月とされるが、ご主人に聞くと、「年中おいしいよ」という。
この漁港の生育環境が、いかに肥沃であるかの証明である。
伊勢海老は生きているものしか使わない。
朝獲ったものを生簀で生かし、取り出せば先ほどのように元気良く動き、鳴く。
まずは刺身である。活き造りである。
半透明な乳白色の刺身に、うっすらとピンク色が刺して美しい。
先ほどまで生きていたやつである。
いや刺身にされてもまだ生きている。
噛めば、生の気配がある。
シコシコッ。クイックイッ。
伊勢海老が歯の間で弾み、噛んでいくと甘みがにじみ出る。
醤油とわさびが用意されるが、何もつけなくともエビ自体にほのかな塩分があって、それがエビの甘みを膨らます。
伊勢海老の刺身は、慎重に、よく噛んだ方がいい。
噛んでいくと、30回くらいからねっとりとして甘みが増すのである。
肝も生で出されるので、こいつを刺身にまぶしてたべれば、日本酒がたまらなく恋しくなるぞ。ちきしょう。
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