6月に飲んだスープは、オレンジ色だった、
12月の初めに飲んだスープは、薄茶色だった。
12月の終わりに飲んだスープは、こげ茶だった。
「イル・ラート」の「ミネストローネ」である。
色合いは、見た目ではない。飲んで感じた色合いである。
「おいしいっ」と叫ぶと、「ありがとうございます。刻んで鍋に入れてスイッチ入れただけです」と、シェフが嬉しそうに謙遜された6月のそれは、トマトのうま味は厳然としてあるものの、赤い味ではなく、オレンジ色の味わいがして、強すぎない。
ジューンブライドの花嫁のような、初々しいエレガントさがある味だった。
「けんちんです」といって出された、12月初めのミネストローネは、ごぼうなどの土の匂いがして、滋養という力が、大きな愛となって体に陽だまりを作っていった。
「今日は寒いから、少し煮詰めて作りました」という12月下旬のミネストローネは、どろどろになっていて、飲むというより食べるという感じに詰められていた。
舌に流し込むたびに充足があり、ため息が出て、冷え切った体と心を温かく抱きしめるのだった。
これがスープという料理が持つ力なのだろう。
ただ美味しく仕上げようとするのではなく、訪れる人の体を思いやって作った古井シェフの情なのだろう。
新宿「イル・ラート」にて。