あんかけうどん <京都の平生>31

食べ歩き ,

「何も入ってないじゃないか」

これが今から30年前に京都で「あんかけうどん」が運ばれて来たときの印象である。

京都の「あんかけうどん」と言えば、生姜とあんしかない。

さらに「けいらん」となると、それが卵とじとなる。

「たぬき」は、天かすではなく、油揚げ(きつね)と生姜とあんになり、「のっぺい」になると、椎茸、かまぼこ、青菜、生姜とあんで、店によっては麩であったり湯葉や卵焼きなどが入る。

東京ではあんかけうどんと言えば具沢山なあんかけうどんを指す。

そんなあんかけうどんを想像して頼んだものだから、面食らった。

しかし京都の人は合理的で倹約家である。

何も具が入らないあんかけうどんをこよなく愛しているのである。

次第に京都に通ううち。そのシンプルさが気にいるようになった。

出汁の味とやわいうどんの蜜月には、もう生姜のアクセントがあるだけでいい。

そう思うようになって来た。

写真は京都「おかる」の「たぬき」である。

これが少しややこしい。

きょうとでは「たぬき」と言えば、この揚げのきざみがはいったあんかけうどんを指すが、大阪では、揚げの入ったそばをたぬきと呼ぶ。

やはり化かされるだけに煙に巻かれてしまう。

この出汁のうまさを、いつまでも熱々のままとろりと胃に流し込む幸せをあじわうと、いつ化かされてもいいと思ってしまうのである。

そうだな、酒を一本もらって、出汁巻きというより、出汁に半身浴しているような出汁巻でやってから、おもむろに「たぬき」をいただく。

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