「何も入ってないじゃないか」
これが今から30年前に京都で「あんかけうどん」が運ばれて来たときの印象である。
京都の「あんかけうどん」と言えば、生姜とあんしかない。
さらに「けいらん」となると、それが卵とじとなる。
「たぬき」は、天かすではなく、油揚げ(きつね)と生姜とあんになり、「のっぺい」になると、椎茸、かまぼこ、青菜、生姜とあんで、店によっては麩であったり湯葉や卵焼きなどが入る。
東京ではあんかけうどんと言えば具沢山なあんかけうどんを指す。
そんなあんかけうどんを想像して頼んだものだから、面食らった。
しかし京都の人は合理的で倹約家である。
何も具が入らないあんかけうどんをこよなく愛しているのである。
次第に京都に通ううち。そのシンプルさが気にいるようになった。
出汁の味とやわいうどんの蜜月には、もう生姜のアクセントがあるだけでいい。
そう思うようになって来た。
写真は京都「おかる」の「たぬき」である。
これが少しややこしい。
きょうとでは「たぬき」と言えば、この揚げのきざみがはいったあんかけうどんを指すが、大阪では、揚げの入ったそばをたぬきと呼ぶ。
やはり化かされるだけに煙に巻かれてしまう。
この出汁のうまさを、いつまでも熱々のままとろりと胃に流し込む幸せをあじわうと、いつ化かされてもいいと思ってしまうのである。
そうだな、酒を一本もらって、出汁巻きというより、出汁に半身浴しているような出汁巻でやってから、おもむろに「たぬき」をいただく。
おすすめです。