雄大な北海道の山野を、フカヒレが泳いでいく。
今夜はそんな夢を見てしまうかな。
先日の「ラ・フィナージュ」高良シェフと「茶禅華」川田シェフがコラボした、新保さん還暦祝いの会での一品である。
高良シェフがとったジビーフスネ肉のコンソメを、川田シェフがとろみをつけ、焼いたフカヒレを合わせた。
スープを飲む。
品格のある滋味が舌を包み、言葉を失う。
ジビーフ特有の草の香りをたなびかせながら、牛肉のうま味が、よく運動した牛だけが持ち得る、健やかなうま味が、ゆっくりと流れていく。
雑味など微塵もなく、澄み渡っているのだが、底が見えぬほどの味わいの深さがある。
フカヒレを崩して、共に食べる。
はらりはらりとフカヒレがほぐれながら、コンソメとまぐわう。
今まで出会ったことなき味と出会う。
我々の知ったるフカヒレは、いささか色香を帯びて、舌を、歯茎を、上顎を、喉をくすぐりながら消えていった。
後に残るは、ジビーフの香り。
僕は最後に、少しだけ紹興酒を注いで飲んでみた。
ああ。
酒で少しだけ味が太くなったコンソメは、誇らしげに甘みを膨らまし、脳裏に張り付くのであった。