Solong vol5
「蠣油鶏球炒河粉」。
有楽町「慶楽」にいくと、いつもこれを食べていた。
二十歳の時からだから、もう40年以上たつのだなあ。
平たい麺が唇を撫でるように口に入ってきて、歯の間でもちっと弾む。
その瞬間が、昔から好きなのである。
いわば、「ずるん。つるり。もちっとね」である。
さらに忘れてはならぬのが、卓上に置かれている「唐辛子酢」である。
いやこれは、「「酢漬け唐辛子」といった方がいいかもしれない。
辛いこと酸っぱいことが好きな人には、なんと素敵な眼福であろうか。
当然かける。次第に多くかける。自虐的になって、もっとかける。自暴自棄になって、気絶するまでかける。
という行為が行われ、「ずるん。つるり。もちっとね」は、酸味と辛み効果でコーフンしながら食べ終えることができるのである。
最近はこの焼きそばに「紅腐乳」を頼み、少し混ぜて食べたりすることに、はまっていた。
夜だと少し贅沢をして、「雑類」と書かれたところから2品ほど選んで、飲み始め、それから麺類か炒飯ランチ(夜もあるのだ)を頼んでいた。
「雑類」とはすなわち、前菜類で、その中でも豚の内臓類の煮込み、コブクロ、胃袋、舌、レバー、マメ、豚足の煮込みの中から必ず選び、紹興酒をやった。
この店は年配客が多く、ある日70代のオジサンが「鶏肉ケチャップご飯」を、一人黙々と食べていた。
「鶏肉ケチャップご飯」とは、チキンライスではない。
鶏入りケチャップ風味あんかけご飯なのである。
鶏入りケチャップ風味あんで、白いご飯を掻き込む料理である。
きっとお好きなのだろう。時折微笑みを浮かべるとこがかわいらしい。
方やこちらのおばさんは、一人でおかゆを食べている。
見ると(すいません)、豚モツ入りである。えらい。
豚モツを一つ口に含んでは、おかゆをレンゲですくって少しずつ口に入れている。
マリアージュしているのか、時折おばさんもにやりと笑う。
また一人のオジサンは、「炒飯ランチ」。
「炒飯ランチ」は、一つの皿に炒飯と青菜炒め、日替わり料理とザーサイがのっている。
そのおじさんは終盤で、二つの料理と炒飯を混ぜに混ぜ一つにして食べ終わった。
「ふう~」とため息ひとつ。
この食べ方は正しい。
見事な大団円に立って、できれば拍手をしたかった。
このバラエティの豊かさこそ中国料理店の楽しさであり、それぞれの料理を食べる常連の達人がそれぞれの料理を輝かせていた。
もうこんな店はできないのだろうなあ
開高健がこよなく愛した「慶楽」は、再来週、68年の歴史を閉じる。
閉店