「秘技限定公開」
その店は、朝6時に行かなくてはいけない。
いや人によっては、5時に行くという。
朝早く店に行って、昼の予約をお願いするのである。
そうして6時間ほど時間をつぶして待つ。
こんなトンカツ屋は全国どこにもない。
そのとんかつは、一度で魅了されるが、様々な豚肉や、様々な種類の部位、様々な食材と合わせたもので、数人で一度行っただけでは到底制覇できない。
そのためまた早朝に出かけることになるのである。
しかしこの店にはとんかつの裏スターと言われる料理があるので困っちゃう。
「ポークジンジャー」である。
生姜焼きといえば生姜焼きなのだが、生姜の具合や甘辛さがほどが良く、しみじみとうまい。
さらに生姜焼きのご飯を喚起させる迫力はありつつ、どこかエレガントなのである。
そこには、時間がゆったりと流れていて時代の古き良き仕事が息づいている。
店主坂本さんは、その世界で長くやられてきた人なのである。
おそらくその時代の丁寧で誠実な仕事を守りながら、自身の改良を加えて完成させたのだろう。
家でも真似て作って見たいと思い、坂本さんに聞いてみたことがある。
しかし坂本さんは「ふふふ」と優しい笑顔で笑うだけで、教えてくれなかった。
ところが、ところがである、
ある日一緒に食事をさせていただいて時に、もう一度頼んでみた。
すると、なんと講座をちゃんとして教えてくれるというではないか。
なんという幸運。
しかも、宮崎の甘い脂としっとりとした木目細かい肉質の「あじ豚」も一緒に送ってくれ、講義してくれるという。
多分もう一生、こんな機会はないだろう。
だが念には念を入れ、また「ふふふ」とごまかされないように、僕が司会進行をすることにした。
ああこれで、娘に自慢のポークジンジャーを作れるぞ。
食べログにて全国1位のとんかつ店「マンジェ」の今回だけの秘技公開