「北京遊膳」

食べ歩き ,

「北京遊膳」が無くなったら、間違いなく食べることが出来なく料理が、この「賽螃蟹(サイパンシェ)」だろう。

賽螃蟹(サイパンシェ) の螃蟹は柔らかい蟹の意味で、賽は匹敵するという意味があるので、蟹料理に勝るとも劣らないというこの料理は、卵の白身と黄身を別々に料理する。
卵白に白身魚とほぐした貝柱、塩とスープ、水溶き片栗粉を入れて混ぜ、それを熱した油に入れていく。
卵黄は蟹の身と塩と混ぜ、葱油で軽く軽く火を通す。
白身の上に卵黄をかけ、生姜のみじん切りをのせて出来上がり。と書くと、いかにも簡単そうだが、これが至難の技である。
口には運べば、白身はふんわりねっとりとして舌にしなだれ、さながら蟹の身のような食感だが、なにごともなかったように口の中から消えていく。
油っぽさは微塵もなく、白身魚や貝柱のうま味を抱き込んだ優しい味わいである。
一方卵黄は、固まっているところが一切なく、液状だが生ではない。
黄身の甘みと香りを最大限に発揮しながら、さらりと白身に寄り添っている。
斉藤さんによれば、卵は特注で、スーパーで売っている卵では白身がこのような状態にはならないと言う。
いやそれよりも、油の温度、白身の落とし方とスピード、かき混ぜ方、上げるタイミングなどに、常人を越えた細心がある。
同様に黄身の仕上げにも、手練の技が光っている。
もう一つの卵料理、黄身をとじた「溜黄菜リュウホワンツァイ」共に、名工の技として記憶されなければならない料理である。